Founders at Work 33のスタートアップストーリー

Founders at Work 33のスタートアップストーリーの詳細

敢えて33人の共通性を抜き出すならば、多くの場合、起点が「起業の為のアイデア」ではなく「アイデアの為の起業」という事。彼らが産み出す生産性の源は「収益を得る為」よりも「社会にとって有益と信じる技術や手段を広める」という欲求に身を任せている。有り体に言えば「世界を変えたい（良くしたい）」と思う事。誰もが夢見る事であるが、この点において彼らはひたすら貪欲。この大難題にリアリティーを持って立ち向かう姿勢、そこが数多の起業者との大きな差なのであろう。失敗や障害はあくまでも「過程に起きる事」であり、とにかく実現までひた走る。反面、状況に柔軟でありアイデアの派生物であれば我が身の転身もすんなり受け入れる。回り道しても最終的に目標に到達できればいいという割り切りがある。彼らが手がける巨大サービスの多くは、実は路線変更の賜物というのだから興味深い。カバーに書かれた「魔法のようなこと」とは、創業時（またはアイデア発想時）特有の没入感である。そこから平時には有り得ない「閃き」や「集中力」や「決断力」が生まれている。これらは「熱意」「情熱」という表現では足りない。精神や環境の歯車がかみ合う事で実現へのレールに乗り、機を得た事で自走モードに入った脳に身を委ねているような状況とも思える。この段階では全ての連鎖がまるで必然のように錯覚でき、ある種の惰性のような何かの不可抗力でさえ彼らの追い風になっていた様だ。また、見るべきは彼らの才や行動力だけでなく、様々な人との出会いがそれぞれの方向性に影響を与えている事。それらは一期一会であったり、旧知の信頼関係、またはライバルからの刺激であったり。当然ながら疎まれたり貶められたり、人間関係が損害の引き金になる場合もしばしば。彼らは皆、人との関わり方が例外なく、自身の成長を促す事を実感している。本書はスタートアップが題材とはいえ、書かれている起点は各人それぞれ随分違う。またエンジニアや経営者など、それぞれの立場から視点も随分違う。人によっては実務レベルな会話であったり、抽象的な表現に終始する場面も。彼らのエピソードに共通性を探るよりも、状況に応じた各自の対応を追う事にこそ本書の価値があるようだ。「初級技術者向け」と書かれているが、このくくりは全く必要ないかと。本書は起業したいと願う万人に最適な書籍である。類希なる才を持つウォズニアック等のケースを自身に重ねる事は厳しいが、数多の起業人にとって良質なサンプルである事は間違いない。